「何かしてあげたい。でも、何をしていいのか分からない」ときのために
大切な人が亡くなったとき、頭では「お葬式の準備をしなければ」と分かっていても、気持ちはなかなかそこについてきません。
病院や施設からのご搬送。ご安置。お寺様への連絡。葬儀の日程。誰に知らせるのか。どこまで声をかけるのか。祭壇はどうするのか。お料理は。返礼品は。写真は。
短い時間の中で、決めなければならないことは驚くほど多くあります。
そして、ひと通りのお打ち合わせが終わった頃、ご家族からこんな言葉をお聞きすることがあります。
「何かしてあげたいんですけど、何をしていいのか分からなくて」
この言葉は、とてもよく分かります。
大切な人だからこそ、何かしてあげたい。
でも、特別な趣味が思い浮かばない。
好きだった食べ物も、これといって分からない。
「こんなことをしていいのかな」と迷う。
ほかの親族がどう思うかも気になる。
お葬式には決まりが多そうで、自由にしてはいけないような気もする。
けれど、私たちがお葬式のお手伝いをしてきた中で感じるのは、「してあげたいこと」は、最初から立派な形になっていなくてもいいということです。
むしろ最初は、はっきりしていないことの方が多いのです。
「何かしてあげたい」
「最後くらい、あの人らしく送りたい」
「いつもの家族の感じで過ごしたい」
「できれば、寂しいだけのお葬式にはしたくない」
その小さな言葉の中に、ヒントがあります。
そこから故人様のお人柄、ご家族との関係、普段の暮らし、思い出、好きだったもの、苦手だったもの、いつもしていたこと、家族しか知らない習慣などを一緒にたどっていくと、「それなら、こんなことをしてみませんか」と形になっていくことがあります。
今回は、これまで白香苑で実際にお手伝いしたお別れ、そしてInstagramでもご紹介してきた事例を交えながら、「何かしてあげたいけれど、何をしていいのか分からない」ときに、どのように考えればよいのかを書いてみたいと思います。
家族葬を選ぶということ。まず大切なのは「誰のためのお別れなのか」
最近は「家族葬」という言葉がすっかり定着しました。
白香苑でも家族葬のご相談は非常に多く、実際にご家族や親しい方だけでゆっくりとお見送りされるご葬儀が増えています。
では、なぜ家族葬を選ぶのでしょうか。
費用を抑えたいから。
多くの方に気を遣いたくないから。
高齢だったので、ご友人も少ないから。
会社関係やご近所に広く知らせる必要がないから。
身内だけで静かに送りたいから。
理由はさまざまです。
ただ、私たちが一番大切にしたいのは、「家族葬だから小さくしなければならない」という考えではありません。
むしろ、家族葬だからこそ考えていただきたいことがあります。
それは、「誰のためのお別れなのか」ということです。
家族葬では、社会とのお別れよりも、ご家族と故人様とのお別れに重心を置きやすくなります。
「お父さんはどんな人だった?」
「お母さんが一番喜ぶことは何だろう?」
「おばあちゃんらしい時間って、どんな時間だった?」
「最後に家族で何をしてあげたい?」
こうしたことを考えやすいのが家族葬の良さだと、私たちは思っています。
家族葬というと、「人数の少ないお葬式」とだけ捉えられることがあります。
けれど、本当に大切なのは人数ではありません。
10人でも、30人でも、場合によっては50人でも、ご家族が中心となって故人様との時間を大切にできるのであれば、そのお葬式には家族葬らしさがあります。
逆に、人数が少なくても、形式をこなすことだけに追われ、故人様のお顔を見る時間もほとんどなく終わってしまえば、「家族のお別れ」という意味では少し寂しいものになるかもしれません。
だからこそ白香苑では、できる範囲で故人様とご家族の関係をお聞きします。
どんな方でしたか。
ご家族との思い出は。
好きだったものは。
普段はどんなふうに過ごされていましたか。
お孫さんとは仲が良かったですか。
どこかよく行かれていた場所はありますか。
仕事一筋の方でしたか。
趣味に夢中になる方でしたか。
家ではどんなお父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんでしたか。
こうしたお話をしていると、最初は「特にないですね」と言われていたご家族から、少しずつ言葉が出てくることがあります。
「そういえば、毎朝必ずコーヒーを飲んでました」
「野球ばかり見ていました」
「孫が来ると必ずお菓子を出してました」
「庭いじりが好きでした」
「家ではいつもこの座布団に座ってました」
「旅行は嫌いだったけど、車で近場に行くのは好きでした」
「和服をよく着ていました」
「バイクだけは本当に大切にしていました」
こうした一言が、お別れの形を考える入口になります。
家族葬を選ぶ意味は、単に参列者を減らすことではなく、故人様との関係をもう一度見つめ直し、「その人らしいお別れ」を考える余白を持つことなのではないでしょうか。
何かをしてあげたい。でも何をしていいのか分からない。お葬式に「絶対こうしなければ」は意外と少ない
「何かしてあげたい」と思ったとき、次に出てくるのが「でも、そんなことしていいんですか?」というご質問です。
これも本当によくあります。
お棺に入れていいものは?
好きだった服を着せてもいい?
通夜のあとに家族で食事をしていい?
音楽を流していい?
写真をたくさん飾っていい?
自宅に連れて帰っていい?
葬儀の流れを少し変えてもいい?
家族だけで、少し特別な時間を作ってもいい?
もちろん、火葬場の規定や宗教上の考え方、安全面、施設の設備などによってできないことはあります。
たとえば、お棺に入れられない素材や危険物がありますし、宗派やお寺様のお考えで儀式の順番を大切にされる場合もあります。時間や設備の都合で難しいこともあります。
しかし、それ以外の部分は、皆様が思っているほど「絶対にこうしなければならない」というものばかりではありません。
たとえば、好きだった曲を一曲だけ流す。
いつも着ていた服をそばに置く。
お孫さんが手紙を書く。
愛用していた道具を飾る。
大好きだった飲み物を最後に少し口元へ。
ご自宅の庭に少しだけ立ち寄る。
最後にみんなで写真を見る。
普段の呼び方で声をかける。
お棺のそばで、家族だけで思い出話をする。
どれも大げさではありません。
けれど、ご家族にとっては、その小さなひとつが大切な意味を持つことがあります。
「何をしたらいいか分かりません」と言われたとき、私たちはいきなりアイデアを並べるよりも、その方のことを少しずつお聞きするようにしています。
好きだった食べ物は何ですか。
趣味はありましたか。
よく着ていた服は。
口癖は。
大切にしていた物は。
家族でよく行った場所は。
一番一緒に過ごしていたのは誰ですか。
お孫さんは何かしてあげたいと言われていますか。
すると、「何も思い浮かばない」が、「そういえば……」に変わる瞬間があります。
そこからでいいのです。
お別れのアイデアは、最初から完成している必要はありません。
ご家族の思いを言葉にして、それを葬儀社が形にする。
本来、葬儀社の仕事にはそういう役割もあるのではないかと、私たちは考えています。
また、思いついたことが、そのままの形ではできない場合もあります。
たとえば「お棺には入れられないけれど、式場に飾ることならできます」「そのまま持たせるのは難しいけれど、写真にして入れることならできます」というように、方法を少し変えることで思いを残せる場合もあります。
最初から「きっと無理だろう」と決めつけず、まず相談してみることが大切です。
実際にあったお別れの事例。小さなアイデアが、そのご家族だけの時間になる
ここからは、白香苑のInstagramでもご紹介した、実際にお手伝いしたお別れの中から、いくつかの事例をご紹介します。
どれも最初から「こうしたい」と決まっていたわけではありません。
ご家族のお話を聞きながら、「それなら、こんなことをしてみませんか」と一緒に形にしていったものです。
大切だったバイクで、お父さんと最後のツーリング
一つ目は、大きなバイクをとても大切にされていた男性のお葬式です。
亡くなられたのは60代後半の男性。
大きなバイクが相棒のような存在で、よく一人でツーリングを楽しまれていました。
ツーリング仲間が大勢集まって、バイクと一緒に見送るようなお葬式もあります。
けれど、その方はどちらかといえば一人で走ることを楽しむ方で、お葬式も奥様と成人された息子さん二人を中心とした家族葬でした。
お打ち合わせの中で、ご家族から「何かしてあげたいけれど、何をしたらいいのか」というお話が出ました。
そこで私たちからご提案したのが、出棺の際に、お父様のバイクで火葬場まで一緒に走るというものでした。
霊柩車には奥様が同乗し、お父様のそばに寄り添う。
そして二人の息子さんが、お父様の大切にしていたバイクに二人乗りし、霊柩車と一緒に火葬場へ向かう。
派手な演出ではありません。
大勢に見せるためのものでもありません。
ただ、
「お父さんが大切にしていたものと一緒に、家族で最後の道を走る」。
その時間そのものが、そのご家族にとってのお別れになりました。
大好きなおばあちゃんを囲んで「最後の女子会」
二つ目は、おばあちゃんが大好きだった四人のお孫さんのお話です。
小学校低学年から中学生までの女の子たち。
大好きだったおばあちゃんが亡くなり、「何かしてあげたい」と一生懸命考えていました。
お母さんたちも、お花はどうか、お供えはどうかと色々考えられていました。
けれど、お孫さんたちは何となくしっくりこない様子でした。
そこでお話をしている中で、私たちから「最後に、おばあちゃんを囲んで女子会をしてみませんか」とご提案しました。
お通夜が終わったあと、和室におばあちゃんを移動し、お顔がよく見えるようにして、お菓子やジュースを囲んでみんなで過ごしました。
最近あったこと。
学校のこと。
おばあちゃんとの思い出。
昔の失敗談。
途中からお母さんたちも加わり、泣いたり笑ったりしながら、いつもの家族らしい時間になりました。
お葬式というと、「静かにしなければ」「悲しんでいなければ」と思ってしまう方もいらっしゃいます。
でも、故人様との関係によっては、笑い声のあるお別れもあるのです。
「一番お母さんらしい姿」で、一晩過ごしたご自宅でのお別れ
三つ目は、90代の女性をご自宅からお見送りしたときのことです。
和服をきれいに着こなす、きりっとされた女性でした。
当初は病院からご自宅に一度ご安置し、その後斎場へ移動する予定でした。
ところが、ご家族のお話を聞いていると、ご自宅への思い入れがとても強い方だったことが分かりました。
そこで「このままご自宅から送るのも一つの方法ですよ」とお話しし、ご家族で相談された結果、自宅葬に切り替えることになりました。
さらに、「一番その人らしい姿は?」とお聞きすると、「和服を着ている姿」というお答えでした。
そこで和服にお着替えいただきました。
ご家族は、「できるだけ長くこの姿を見ていたい」と言われました。
一般的には早めにご納棺することも多いのですが、状態を確認しながら工夫し、一晩はお布団に横たわった姿でご家族と過ごしていただき、葬儀当日にご納棺しました。
これも、何か特別なことをしたいというところから始まったわけではありません。
「家が好きだった」
「和服姿が一番その人らしい」
「できるだけ長く、その姿を見ていたい」
そんなご家族の言葉を一つずつ大切にした結果、生まれたお別れでした。
事例から広げて考える。「その人らしさ」は、趣味がなくても見つかる
ここまでの事例を見ると、
「バイクがあったからできた」
「和服という分かりやすい特徴があったからできた」
と思われるかもしれません。
でも実際には、特別な趣味がなくても、その人らしさはたくさんあります。
むしろ、家族にとって大切なのは、華やかな趣味よりも「いつもの姿」であることが多いのです。
たとえば、毎朝新聞を読むのが日課だったお父さんなら、愛読していた新聞をそばに置いてあげる。
料理が好きだったお母さんなら、愛用していたエプロンを近くに掛けておく。
甘い物が好きだったおじいちゃんには、最後に好きだったお菓子を少しだけ用意する。
孫の野球を楽しみにしていたおばあちゃんには、ユニフォーム姿の写真や試合の写真を飾る。
庭を大切にしていた方なら、ご自宅の庭の花を一輪だけお棺に入れる。
いつもラジオを聞いていた方なら、好きだった番組の時間にラジオを流してあげる。
毎日同じ湯のみでお茶を飲んでいた方なら、その湯のみを祭壇のそばに置いてあげる。
「その人らしさ」は、必ずしも大きな趣味や分かりやすい個性から探すものではありません。
家族との日常の中にもあります。
毎週孫を迎えに行っていた。
夫婦で夕方に散歩していた。
家族が集まると必ず同じ料理を作っていた。
そんな何気ない習慣も、十分にお別れのヒントになります。
そして、もう一つ大切なのは、「誰がしてあげたいのか」という視点です。
喪主様が思いつかなくても、お孫さんには何かあるかもしれません。
奥様は静かに送りたいと思っていても、息子さんには一つだけしてあげたいことがあるかもしれません。
お孫さんの中に、どうしても伝えたい言葉があるかもしれません。
実際、以前あったお葬式では、ご家族だけで進める予定だったところ、お通夜ぎりぎりに遠方から到着されたお孫さんの強い希望で、急きょ翌日のご葬儀に故人様のご友人やご近所の親しかった方へ声をかけることになりました。
そのお孫さんは、故人様に一番可愛がられていた、いわゆる「おじいちゃん子」の方でした。
「自分が差額を出してでも、祭壇をもう少し立派にしてあげたい」
「おじいちゃんと仲が良かった人にも、最後に来てもらいたい」
その思いを受けて、お通夜終了後から夜のうちに内容を変更しました。
お葬式を決めるとき、喪主様のお考えはもちろん一番大切です。
けれど、その方を大切に思っているご家族がほかにもいるなら、一度だけでも、
「何かしてあげたいことはない?」
と聞いてみることには意味があります。
意外なところから、大切なお別れのヒントが出てくることがあります。
大切な人を送るとき、人は「何かしてあげたい」と思う
お葬式が終わったあと、ご家族からお聞きする言葉には、いくつか共通するものがあります。
「ちゃんと送れてよかった」
「最後に顔を見ながら話せてよかった」
「本人らしいお葬式になったと思います」
「孫たちがしてあげたいことをできてよかった」
「家に連れて帰ってあげられてよかった」
その一方で、
「もっと何かしてあげればよかった」
「あのとき聞いておけばよかった」
「急いで決めてしまった」
「本人ならどうしてほしかったんだろう」
そんな言葉を聞くこともあります。
大切なのは、たった一つでもいいのです。
最後に好きだったものをそばに置いてあげた。
お孫さんが手紙を書いた。
家族みんなで写真を見た。
自宅に帰れた。
お気に入りの服を着せてあげた。
好きだった音楽を流した。
最後に家族だけでゆっくり話をした。
その「ひとつ」があるだけで、「何もしてあげられなかった」という気持ちは少し変わります。
亡くなったあとにできることは、決してゼロではありません。
最後に触れる。
声をかける。
好きだったものをそばに置く。
家族で思い出を話す。
「ありがとう」を言う。
「お疲れさま」を言う。
「心配せんでいいよ」と言う。
それも十分に、してあげられることです。
お棺のそばで、息子さんがいつもの口調で「親父、じゃあな」と声をかける。
小さなお孫さんが、「ばあちゃん、またね」と手紙を入れる。
奥様が、誰もいなくなった式場で静かにご主人の手を握る。
ご家族みんなで笑いながら昔の話をする。
そういう時間に、そのご家族のお別れがあります。
お葬式は、故人様のための儀式であると同時に、残された方が少しずつ「亡くなった」という事実を受け止めていく時間でもあります。
だからこそ、無理に立派にしなくてもいい。
けれど、心の中に「何かしてあげたい」という思いがあるなら、それを小さくても形にすることには意味があると思います。
そして、そのために葬儀社があります。
「こんなことを言ったら変でしょうか」
「こんなこと、してもいいんでしょうか」
「うちの家族だけかもしれませんが……」
そう言いながらご相談される方は少なくありません。
けれど、ご家族が本当にしてあげたいことなら、まずは話してみてください。
できること、できないこと。
難しいなら別の方法。
安全面や宗教面への配慮。
それを一緒に考えるのが私たちの仕事です。
まとめ 「何をしてあげたらいいか分からない」は、何もできないという意味ではありません
大切な人とのお別れに、正解はありません。
家族葬だからこうしなければならない。
小さなお葬式だから何もしてはいけない。
宗教儀式があるから自由なことはできない。
そう思い込んでしまう必要はありません。
もちろん、守るべきことやできないことはあります。
しかし、その中でもできることは意外とたくさんあります。
そして、そのヒントは特別なところにあるのではなく、ご家族の普段の暮らしの中にあります。
よく飲んでいたもの。
いつも座っていた場所。
口癖。
好きだった服。
孫との時間。
庭。
車。
バイク。
野球。
音楽。
料理。
新聞。
テレビ番組。
旅行。
家族しか知らない習慣。
「そんなことでいいんですか?」と思うようなことほど、その方らしいことがあります。
もしものとき、ご家族で一度だけ話してみてください。
「何かしてあげたいこと、ある?」
すぐに答えが出なくても構いません。
「何も思いつかないね」と言いながら故人様の話をしているうちに、「そういえば……」と出てくることがあります。
そして、その一言を葬儀社に伝えてみてください。
「こんなこと、できますか?」
「こうしてあげたいんですが、方法はありますか?」
そこから、一つのお別れが形になることがあります。
白香苑では、決まった形に当てはめるだけではなく、ご家族のお話をお聞きしながら、その方に合ったお別れを一緒に考えることを大切にしています。
大げさな演出でなくていい。
特別なことをしなくていい。
たった一つでも、「してあげられた」と思えることがある。
それだけで、お葬式が終わったあとの気持ちは少し違うことがあります。
もしもの時は、何から考えればいいのか分からなくて当然です。
だからこそ、まずは「どんなお葬式にするか」ではなく、
「どんな人だったか」
「どんな関係だったか」
「最後に何をしてあげたいか」
そこから考えてみてはいかがでしょうか。
その答えの中に、そのご家族にしかできないお別れの形が見つかるかもしれません。
「まちの小さなお葬式」白香苑
住所:福岡県久留米市大善寺町宮本1501
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